石原都知事の「三国人」発言を聞いてもピンとこない人が多いだろう。それもそのはず、戦後の混乱期という大分昔の事情を知らなければ、何がなんだか理解できないからだ。関西より東の人はあまり知らないだろうが、私の生まれた神戸を始めとして、関西には社会の少数派を差別する言葉が非常に多い。ここではとても書けないような言葉が、日常的に民衆の口から飛び出す。これは、異文化が西からやってきて文化摩擦を起こしたことの現われでもあるのだろう。問題の「三国人」などという言葉もその仲間である。
「三国」とは、「ポツダム宣言的表現」に他ならない。ポツダム宣言を受け入れて降伏した国（日本）とそれを占領する国（事実上アメリカ合衆国）が無条件降伏の当事国である。当事者以外の人を「第三者」と言うように、アメリカと日本以外の国を「第三国」と表現したのである。例えば、強制連行や経済的事情から日本に居住していた中国人、朝鮮半島出身の人々は「第三国人」であるが、彼らは同時に「戦勝国」側の国民でもあった。それまで差別され、不当に低い待遇だった人々が一気に「戦勝国民」になったのである。
「三国人」なる言葉が差別的に使われるようになったのは、そうした背景からであった。「三国人が闇市（ブラック･マーケット）で暴れている。」「三国人に殴られた。」などが当時の「正しい」(^^;)用法である。それまでアジアの隣人を差別し、虐待してきた日本人は、その抑圧の程度に見合うだけの、いやそれ以上の恐怖感を持ったであろう。（関東大震災時の朝鮮人虐殺を想起しよう。）
例えば神戸では、闇市や港湾荷役に関わる「三国人」の勢力は大きく、実際、新興の愚連隊（不良集団ね）と頻繁に衝突したらしい。警察署が襲撃されることも珍しくなかった。一方、警察はすっかり「戦争反対勢力」を取り締まる組織に変質しており（今も同じである）、思想的背景のない暴力には全く弱かった。（今も同じである。オマワリが暴走族に勝った試しがない。最近では中学生にも逃げられている。）
では、誰が騒動を静めたか。神戸の場合ははっきりしている。「山口組」（三代目･田岡組長）である。山口組の堅気の仕事は港湾荷役の甲陽運輸と芸能興行事務所の神戸芸能社（美空ひばりを売り出した）だったが、元は博徒であるから威勢がよかった。復興景気に乗って、腕に自慢の若い衆も集まってくる。騒動があると駆けつけ、時には警察署を襲撃から護ったこともあった。それまで一線を引いた関係であった博徒と警察が、戦後の混乱の中で「持ちつ持たれつ」の関係になったのである。兵庫県警はその頃、田岡組長を「一日警察署長」に任命したこともあった。（よくタレントがやってるやつね。）警察の制服・制帽に身を包み、壇上から警察官に敬礼する田岡組長。後に「山口組壊滅頂上作戦」が行なわれた時、こうした過去の「警察・ヤクザの一体化」は「汚点」として隠された。しかし、歴史を変えることはできない。（写真もばっちり残っている。）そもそも、地方ヤクザの山口組が巨大化したのは、戦後の混乱期に一定の役割を果たし、その代償として港湾の利権を握ったからである。
こうして戦後「三国人」の勢力は次第に弱まっていったわけだが、結局差別は残った。大震災でも、差別待遇があちらこちらで顔を出した。それでも、在日外国人の人々は頑張り続け、定住外国人が公務員に採用されたり、地方参政権を認めようという動きもますます大きくなっていることは事実である。
さて、「三国人」は暴動を起こすのか。言葉を正確に使うなら、敗戦当時の「第三国人」は今日では日本社会の立派なメンバーである。暴動を起こすはずがない。では、最近入国した外国人（これを第三国人と呼ぶことはできない）が暴動を起こすのか。そもそも「暴動」とは団結行動である。多くの民衆の意志が一致するから暴動になるのだ。（暴走行為程度は暴動とは言えない。昔、新日本プロレスの不透明決着に怒ったファンが旧国技館で暴れ、設備を壊しまくって長い間国技館使用禁止になったことがあった。これは意志の統一があるから暴動だあ。最近ないねー。）一体、どこの外国人がそれほど組織されているのか教えてほしいものだ。「すぐに群れる」のは日本人の得意技であって、「外国人」はよほど利害が一致しないと団体行動はしない。
ところで、自衛隊は「暴動鎮圧」ができるのか。治安出動の法的問題は措くとして、そんな訓練してないでしょ。（この間は豪雪の八甲田山で北から攻めてくる敵を迎え撃っていたぞ。）西側先進国でも、それは警察の治安部隊・特殊部隊の役目だ。しかし、オウム事件で示されたとおり、警察だろうが自衛隊だろうが、数名程度の実行部隊によるテロさえ封じ込めることができないのだ。（いつも後始末だけ。）やはり、「街の悪い奴」をおさえるのは「地元のヤクザ」でしょう。ところが、「暴力団対策法」でヤクザは虫の息。そこに不良外国人や学生の麻薬密売人がつけこんで商売しているから治安が悪いのだ。むしろ、石原知事はヤクザの「定例会」にでも行って激励すべきだったのである。
記者に追求されたシンタローは「三国人のどこが差別なんだ」「科学的・論理的に差別だと証明してみろ」と居直っていた。まず、上に述べたように、これが差別語であるのは関西の人間なら常識だ。次に、差別は社会関係の問題であって「科学的」なものではない。科学的でないから差別なのである。（有色人種は知能が低い、など）従って、差別は論理的でもない。論理的に証明できるものは法則性を持っている。差別は、いつでも、どこでも起こるものである。だからこそ、私たちは、自らのうちに絶えず生まれてくる差別を警戒しなければならないのだ。
シンタローが下らないことを公言するのも、「ニセ民族派」「歴史インチキ物語論者」がチマチマ活動しているからだろう。若い諸君には、あまり重視されていない戦後史の研究をすすめたい。
